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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)46号 判決 1968年7月20日

原告

マツクス株式会社

代理人弁理士

丹生藤吉

安藤政一

土橋秀夫

被告

尾崎朔

主文

特許庁が昭和四三年一月三一日同庁昭和四〇年審判第五五一七号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一被告は本件口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面をも提出しないから、特許庁における本件審判手続の経緯および本件審決の理由の要旨についての請求原因一および二の事実は、民事訴訟法第一四〇条第三項により、被告において自白したものとみなされる。

二その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので真正な公文書と推定すべき甲第二号証(引用例(二)の意匠公報)および同第三号証(本件登録実用新案の公報)によれば、つぎのとおり認められる。

すなわち、(一)本件登録実用新案の要旨は、「別紙第一図面に示すとおり、正面形の止釘1を多数接触状にして、その連接体の外面よりビニールのような合成樹脂液をもつて被膜2、3を設けて、止釘1の連結体aを形成して成る連結止釘の構造」にあり、その連結止釘は、電線止釘および紙函または書面の止釘などとして使用され、これに対する被膜2、3は、止釘1の連結効果のほか、電線止釘として使用する場合には絶縁兼錆止の効果を有し、また、紙函または書面の止釘として使用する場合には錆止の効果を有するものであつて、この被膜2、3は、本件実用新案公報の「考案の詳細な説明」の項中に「本案は、正面形の止釘を多数接触状にして、その連接体の外面よりビニールのような合成樹脂液をもつて被膜2、3を設け」「止釘1を多数接触状にしても、その接触部には、第三図において示すように、わずかな隙を有し、その隙内に被膜が喰入つて、止釘1と1間に凹条を表わす」と記載されているところからも明らかなように、連結体aの表裏全面にわたりビニールのような電気絶縁性の合成樹脂をもつて形成されているものと認められ、一方、(二)引用例(二)の意匠公報は、本件登録実用新案出願の日(昭和三五年七月一九日)前の日である昭和三五年四月三〇日に発行されたものであつて、そこには、別紙第二の図面に示されるとおり、正面形の建物用ラス止用ホッチキス針(止釘)を多数接触状にして、その連接体の外面より連接塗剤をもつて被膜を設けて、ホッチキス針の連結体を形成して成る連結ホッチキス針が記載されており、その被膜が、ことに右図中「一部拡大縦断面図」に示されているように、各ホッチキス針の接触部の間隙内はもちろん、連結体の表裏全面にわたつて、本件登録実用新案の被膜におけるとほぼ同等の厚さの被膜として形成されていることが認められる。

三ところで、本件審決は、本件登録実用新案の連結止釘の構造と引用例(二)の連結ホッチキス針(止釘)の構造とを対比し、両者がたがいに異なる理由として、引用例(二)の連結ホッチキスにおいては、(1)被膜は、連結体の表裏全面にはなく(本件登録実用新案のものには、これが表裏全面にある。)、(2)その被膜が防錆兼電気絶縁性の合成樹脂をもつて形成されているものとは認められない(本件登録実用新案の被膜は、このような合成樹脂より成る。)との二点を挙げている。しかしながら、引用例(二)の連結ホッチキス針がその表裏全面に被膜を有するものであることは、前示認定によつて明らかであるから、右(1)の点についての本件審決の判断は誤つてものである。また、この被膜を形成する物質の点については、それが接着剤であることは、前掲甲第二号証の図示に徴し明らかであるところ、本件登録実用新案の出願当時、この種の接着剤として合成樹脂を用いた接着剤が市場に普通であつたこと、そして、合成樹脂の接着剤は通常は防錆兼電気絶縁性を有することが当裁判所に顕著であるから、引用例(二)の連結ホッチキス針における被膜がこのような合成樹脂によつて形成された被膜を含まないものであるとするなど特段の事情が認められない本件においては、引用例(二)の被膜をもつて合成樹膜の被膜でないとしてしまうことは相当でなく、そこには、合成樹脂によつて形成された被膜を含む被膜が図示されているものと解すべきであり、したがつて、本件審決は、この点においても引用例(二)について事実の判断を誤つたものといわなければならない。

四右のとおりである以上、本件審決は、引用例(二)について事実の判断を誤まり、たやすく本件登録実用新案の登録無効の審判請求を排斥した違法があるものといわなければならない。本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その余の引用例および実物との対比についての判断をまつまでもなく、理由があるから、これを認容する。(小沢文雄 荒木秀一 石沢健)

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